アラン・デュカスが作ったものとは?『ミラノ・トップシェフたちの競演~余りもので何を作るのか~』
昨夜、NHK BSで、『ミラノ・トップシェフたちの競演~余りもので何を作るのか~』
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/3690/2731104/index.html
という番組をやっていて、なんと世界最高峰の3つ星シェフであるアラン・デュカス氏が、賞味期限ぎりぎりの食材や余り物を使って料理を作るという。
しかも、それを職を失った路上生活者達のために提供するらしい。
3つ星レストランのシェフなので、普段、食材の質で妥協することは絶対にあり得ない。
しかし、この妥協だらけというより、本来捨てられてしまうはずの食材を使って、デュカスが、果たしてどんな料理を作るのか?
これは、非常に興味深いので、録画しておいて見ることにした。
結論から言うと、アラン・デュカス恐るべし!!という他ない。
作ったのは3皿
使った食材は44種類。
台所にあまっていた食材は、「全て使う」と言っていたので、全て使ったのだろう。
前菜は、小麦のスープ ヤギのチーズ載せ
メインは、様々な種類の肉を挽いて作ったミートボールのロティ、ピュレにした茄子、ひよこ豆を添えて 北アフリカの香り
デザートは、パンのタルトとフルーツのソルベ フルーツ添え
メインの料理を試食したデュカスの満面の笑みからいって、素晴らしい出来だったに違いない。
捨てるはずの食材、余った食材で60人分の料理を作る。
これは、非常に大変なことだ。
それを3つ星のスーパーシェフが作る。
世界中の人が注目している。
それは、大変なプレッシャーだろう。
しかし、デュカスの作った料理は、筆者の想像を超えていた。
もちろん自分で食べたわけではないので、そこの部分は何とも言えないが、番組を見た限りで理解出来る筆者の解説を書いておこうと思う。
これは、人類にとって有益な一歩だと思うので。
今回の顧客(クライアント)は、路上生活者のホームレスである。
その多くは、おそらく北アフリカや中近東から来た移民で失職した人達である。
そのことを前提に、デュカスは、料理を組み立てている。
まず、前菜の小麦のスープだが、これは基本的に北イタリアで広く日常に食べられているもので、日本で言えばお味噌汁的なポピュラーな料理。
言わば、当地のソウルフードといっても良いもの。
それをまず前菜に選んでいる。
小麦は、スプーン一杯分を残して裏ごしされ、スープになっている。
出汁は、ありとあらゆる野菜を中心とした出汁のようだ。
調理した小麦の上にヤギのチーズを載せ、黒こしょうと塩で味付け
それを中心としてスープを注ぎ込む。
仕上げに、オリーブオイルと酢を少々
さらに、パルメザン系なのか、ヤギのチーズを焼いたのか分からないが、パリパリに焼いたチーズを添えて出来上がり。
これは、小麦を中心としたスープの、2つの食感
裏ごしして滑らかになったものと、粒状のものの食感の違いがあり
さらに、ヤギのチーズを入れることで、暖かいスープと冷たいチーズの温度差違いを楽しめる上、チーズがスープに溶けていくことによって生じる味や濃度の違いを楽しむことが出来るようになる。
そして、パリパリに焼いたチーズの食感と香りも楽しめ、それもまた時間と共にスープに溶けて出汁となってくわけで、見た目に美しいだけでなく、スープの中に時間の経過に伴う味の変化を作っているのである。
もちろん、オリーブオイルの香りと酢の酸味も加えている。
一皿において、これだけのエンターテイメントが行われているのだ。
エンターテイメントだけではなく、そこには、日々の生活に密着した、その土地で生まれる命のスープとも言うべき本質的な食べ物が選ばれており、ヤギのチーズもまた、そうだろう。
奥が深いのだ。
メイン料理に関しては、トルコ料理として知られている『ドルマ』という、茄子の中にひき肉を詰めた料理がベースになっていると考えられる。
『ドルマ』は、中近東から北アフリカにかけて広く食べられている料理であり、今回のクライアントの出身地における『ソウルフード』的なものだ。
茄子の旬ともあいまって、この料理を選んだものと考えられる。
トルコ料理は、歴史的にフランス料理のベースになっているということもあるだろう。
デュカスは、「野菜の量が足りないから、逆さにした」と言っていたが、『ドルマ』を詰め物ではなく、茄子のピュレの上にひき肉をロティして置く方法に切り替えている。
筆者が見た限りでは、調理場にあった茄子は、大きく熟れており、実は成熟していて皮は固いように見えた。
スーシェフのクリスチャンが、「皮も使いますか?」と聞いて、「皮は使わずに中身だけくりぬいて使う。急速に焼く」みたいな事を言っていたので、おそらく、茄子の実が成熟して皮が固いので、皮をパリパリに焼き、身をぎゅっと縮ませて濃厚な味にしてからくりぬき、それをピュレする方法を選んだのだと思う。
これだと、食材が多少古くても、実が成熟し過ぎていても美味しく食べられる。
食材を見極める目と、それをどう料理するか?の選択が完璧なのである。
ミートボールの方も、様々な種類の肉と部位、おそらくソーセージ等も入っていた。をミンチにしてまとめることで、味や油分、旨味を調整したのだと思う。
一つ一つの食材が足りないことを逆手に取った素晴らしいアイデアである。
ひよこ豆というのも中近東からアフリカにかけてのソウルフード的なものだ。
逆さにしたドルマと共に、クライアントが住んでいた地域を強くイメージさせる食材をこれまた選んでいる。
茄子との食感の違いも含めての選択というのもあるだろう。
さらにオドロクべきことに、カレー味のポップコーンを使ったソーズをかけている。
ポップコーンというのは、つまり、とうもろこしであり、これまた北アフリカから地中海沿岸にかけてのソウルフードであり、通常はポレンタという薄く伸ばしたナンみたいなもので食べられているが、ここでは、ポップコーンを使ってソースに再生しているのだ。
おそらくポップコーンのカレー味に合わせて、エスニックなスパイスを何種類かソースに加えているはずである。
香りというのが、一番『記憶』を呼び戻すことが知られている。
デュカスは、中近東や北アフリカ出身の路上生活者達の元々暮らして食べていたものの『記憶』を香りや味を使って呼び起こすことを狙ったのだと思う。
デュカスが、この料理を試食して、3口、4口ほど食べてから満面の笑みを浮かべたのは、彼の狙い通りにこの料理が出来上がったことを意味していたのだと思う。
おそらく、この料理を食べたら、涙出そうである。
デザートの作り方はやっていなかったので割愛。
他のシェフの料理も、もちろん面白かったが、やはりデュカスは別格だ。
是非、このデュカスの料理に関して、1時間くらいの番組を作ってくれないだろうか?
とても素晴らしい番組になるはずだ。
この企画は、非常に有益な試みであり、ファッションの世界で言うと、90年代に出てきたマルタン・マルジェラによるアーティナザル(古着などを組み合わせて別の服に昇華させる技法)と同じようなエポックメイキングな試みだと思う。
この企画をきっかけに、食料の流通と料理の関係に劇的な変化というか、新しい潮流が生まれるかもしれない。
それほどインパクトのある企画だった。
そして、やはり、世界のトップのシェフの引き出しは、さすがである。
日本で1年間に捨てられている食料は、およそ10兆円と言われている。
この使い道、まともな料理人だったら、当然考えてみるべきだと思いませんか?
それらが、素晴らしい料理に生まれ変わったとしたら、本当にスゴイことだと思いました。
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by guild-01 | 2015-10-01 21:28 | 料理











